デザイナーからみた企業レポートデザインの今

デザイナーからみた企業レポートデザインの今

企業をはかる指標として、財務情報や、ESGやサステナビリティ等の非財務情報を開示する「統合報告書」や「サステナビリティレポート」。みなさん今年度版の発行に向けて、鋭意制作中だと思います。
この報告書は企業の未来を語るため、内容が重要ではありますが、この内容を伝えるため「どう見せるか?」も大切な要素となってきます。
昨年制作されたレポートから、3つのタイプを見ていただき、レポート作成の考え方の参考としていただけたらと思います。


TYPE 1




貴社らしさを出しつつも、ビジュアル要素はポイントで、しっかりとした情報開示を目的としたレポート

多くの企業がこのタイプとなると思います。あくまでターゲットは機関投資家やこの活動をしっかり評価できる方が読まれることを前提に、長期ビジョン、トップのメッセージ、持続可能な社会に向けての目標、進捗。自社だけではなく、バリューチェーンの情報、財務、環境などの様々な情報を豊富に開示することで、自社の現在、未来への期待が持てるレポートが現在の主流です。
デザインは表紙等で貴社らしさを出していきますが、内容的には情報過多になるため、ビジュアル要素は価値創造プロセスなどポイント的にはデザインをしっかり作り込んでいきますが、全体的には控えめに、内容をしっかりと読みやすくレイアウトしています。
統合報告書やサステナビリティレポートが普及していますが、多くの専門用語や複雑な関係性について説明が必要とされます。この解消に、短時間で理解できない情報を理解してもらう目的として、ダイアグラム、ピクトグラム、チャート、相関図、フローチャートなどのインフォグラフィックスを用いて視覚化されていました。海外のレポートではインフォグラフィックスをビジュアルの要素とし使用したレポートもありましたが、現在のレポートでは、インフォグラフィックスは情報をわかりやすく伝えるための手段として、様々な場面で使われ、定番的な要素となっています。
内容的にはカバーストーリー→トップメッセージ→価値創造プロセスや中長期のビジョン等→重要課題→ESGの取り組み→財務データといったこれまでの流れを踏襲したものが主流です。
このタイプのレポートは、ページ数もそれなりありますので、ポイントで扉をしっかり設け、区切りをつけるなどメリハリをつけると全体的に読みやすいレポートになります。
【ご参考】
住友林業グループ サステナビリティレポート2020 https://sfc.jp/information/society/pdf/ 
エスペック株式会社 サステナビリティレポート2020 https://www.espec.co.jp/sustainability/report.html


TYPE 2





全てのステークフォルダーに向けて読んで楽しく、企業の未来を感じてもらえるビジュアル要素を多く含んだレポート

ターゲットは機関投資家や活動を評価できる方だけではなく、社員など自社に係る様々なステークフォルダーの皆さんに楽しく読んでもらえるように、ビジュアル要素を多く盛り込み、未来を感じてもらえるレポートです。カバーストーリーでは、取り組みなどを写真やインフォグフィックスを用いて、わかりやすく興味を喚起するデザイン、トップメッセージでは工夫された写真を使い、トップの人柄がわかるようなページに。各要素でもポイントでビジュアルを加え、多くの方に興味をもっていただけるデザインにしています。
レポート内に社員など、ステークフォルダーにも参加いただき、企業の良い雰囲気を出すと同時に、レポートに出ることで、記載されている内容を「自分ごと」に感じてもらい、インナーブランディングにつなげることもできます。
今後はこのタイプのレポートが増えてくると思いますが、活動の内容をしっかり知ってもらうためのビジュアルのなので、誇張表現や、ただグラフィカルでかっこいい・・・となってしまわないよう注意しないといけないですね。
上のイラストは、当社(統合)レポートの役員紹介で当社デザイナー・イラストレーターがそれぞれの役員イメージを自分なりのイメージで描いたものです。当社は印刷会社ですが、ディレクターやデザイナーなどソフト面でも付加価値の高いクリエイティブが可能である当社の強みを知ってもらう良い機会にもなりました!
【ご参考】
サンメッセレポート2020 https://sfc.jp/information/society/pdf/ 
HORIBA Report 2020-2021 https://www.horiba.com/uploads/media/20210518_HR_jp_07.pdf
 

TYPE 3




環境負荷軽減のためペーパーレスに。アクセシビリティを高めたPDFオンリーのレポート
最近では環境負荷軽減のため、ペーパーレスが進んでおり、レポートに関しても印刷まではせず、サイト上でPDFを公開するだけという流れもでてきました。これまでの冊子版をPDFとしてサイトにアップするのではなく、PDFの開示オンリーで、誌面もA4横で作成し、インデックスから見たいページにジャンプできたり、アクセシビリティに配慮されたインタラクティブなPDFのレポートが作られています。
印刷をしないため、ページ数に制限が無く、必要な原稿を制限されたページ数におさめなくていいので、余裕のある誌面レイアウトが可能で、URLが記載されている場合、そのリンクを挿入できたり、関連するページに誘導したり、掲載ページがどのGRIに関連しているか表示したり、情報開示の幅を広めています。
【ご参考】
日産サステナビリティレポート 2020 https://www.nissan-global.com/JP/SUSTAINABILITY/LIBRARY/SR/2020/
エプソン 統合レポート 2020 https://www.epson.jp/IR/library/integrated_report.htm

 


まとめ

ターゲットをしっかりと定めたレポートで
目的を改めて考えたレポートづくりを
デザイナーの立場から、「他の企業が出しているから」「他の企業のかっこいいレポートと同じように」と言った考え方ではレポートを出す意味がありません。よいレポートをお手本にするのは大変良いことですが、せっかくレポートを制作するのであれば、ターゲット、目標をしっかり持って制作に臨むことで、ビジュアルの方向性も自ずと見えてきます。同時に何が足りないかも分かってきます。レポートを通じ持続可能な企業への道筋が開けるものになるよう、制作する私たちも一緒にしっかり考えお手伝いができればと思います。
投稿者:Y.N

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